J.フィンリー初挑戦のスカルピアに注目
ロイヤルオペラ(ROH)シネマシーズン2017-18「トスカ」を観てきました。
まず注目したいのはスカルピアを初めて歌うというジェラルド・フィンリー。
この方、私は「ウィリアム・テル(ロッシーニ)」の題名役で初めて観て、とても知的で優しく包容力のあるバス・バリトンという印象でした。
あとで調べたら、コヴェントガーデンの映像では「フィガロの結婚(モーツァルト)」のアルマヴィーヴァ伯爵でも観ていたのですが、ほぼ印象に残っていなくてあまり覚えていなかった。だから、正直フィンリーのスカルピアってイメージが湧きませんでした。
ところがですよ、もう衝撃!一幕の登場のシーンから度肝を抜かれました。
少なくとも私はこんなタイプのスカルピアを一度も観たことがありません。だいたいがお代官様系のやらしいスケベオヤジだとか、高圧的で横暴な権力者だったりします。
ところがフィンリーの構築したスカルピアというは、完全にキレてる性犯罪者でかつイカれた絶対権力者。ゾッとするような迫力で歌い演じていました。こんな芝居ができる役者だったとは驚き以外何もありません。
他の方のブログをみても、『今回のスカルピア=フィンリーは初挑戦だそうだが、見事など迫力。ここだけでも観に行くかいはある。』などと、絶賛されています。
私は元々ヒール役にキュンとくるタイプ、「宇宙戦艦ヤマト」で一番好きなキャラはもちろんデスラー。しかも普段、インタビューでもあんなに穏やかで優しいフィンリーの豹変ぶり!ギャップ萌えで悶絶しちゃいました。
♡もー好き♡
トスカとカヴァラドッシ
さて、しかしなんと言っても肝心なのは二人の恋人たち、トスカとカヴァラドッシです。
トスカはエイドリアン・ピエチョンカ。カヴァラドッシはマルタ島出身のジョゼフ・カレヤです。
この二人に関してはまず、トスカを500回観ているというほぼ同意見の方のブログを引用させてもらいます。このブログを書いている方は現地で、シネマシーズンに使われた公演の別日に生の舞台を鑑賞しておられます。↓
『アドリアンヌ・ピアチェンカは、か細い声のゲオルギューと比べると声に厚味があり、ドラマチック・ソプラノが歌うべきトスカには当然向いてるので(ゲオルギューの変形トスカもそれはそれで魅力的ですが)、歌は期待通りよかったけど、芝居が全く下手。 細やかな演技のゲオルギューがいかに上手だったか思い知りました。 昨日のライブシネマ中継は演技的には(これ大事)、ぱっとしなかったでしょうねえ。』
『ジョセフ・カレヤはROHに出過ぎで飽きてうんざりなんですが、声量はあるし、初めて聴いたら感動するでしょう。 だけどクマゴローみたいなルックスだし大根役者なので、ピエチェンカとのラブシーンとか、大画面でアップで見たくないです。』
私はこういう類の映像を「想像力酷使系」と勝手に名づけていますが、ほんとにね、この二人、観客の想像力に頼りすぎ。
ピアチョンカは正直、ルックスも存在感も美貌の歌姫には程遠く、ただのダサイ中年太りの田舎臭いおばさん。かなり大柄なので、小柄なフィンリーとのバランスが酷い。二幕でスカルピアがトスカに迫るシーンが滑稽に見えてしまうので、こっちは必至で妄想しなくてはならなくて大変です。
昨シーズンのMETエレクトラ(R.シュトラウス)でクリソテミスを歌った時は、歌は素晴らしいし役柄的にも良かったと思いましたが、トスカはキツイ・・・少なくとも映像は勘弁です。
カレヤに至ってはもう言いたいことはただ一つ。
「痩せろ。」
赤とグレーのストライプのチョッキが似合わないこと似合わないこと、クマゴローの方がまだ可愛い。
テノールは太っていても良いと思っている輩がいますがとんでもない話です。だいたいそういうテナーの頭の隅には、巨漢パヴァロッティの姿があるのではないかと思いますが、彼は神の声を持つ天才でした。「同じ土俵に乗れると思うなよ」と言いたい。
それに私はパヴァロッティのカヴァラドッシを観た時、銃殺されるシーンで「よっこいしょ」と膝を曲げる姿にブチ切れましたからね、太り過ぎでなかなか倒れられないから、指揮者もオケもトスカもみんな待っているという・・・マジ全部台無しだし。
とにかくピエチョンカとカレヤ、この二人声も歌も良いんだけど何かが足りない、華がない。久しぶりに、ふつーにつまらないトスカを観てしまいました。
METライブビューイング VS ロイヤルオペラシネマシーズン対決の結末は?!
先程のトスカ500回さんのブログをまたまた引用させてもらうと↓
『この直前にラジオの生放送で聴いたメトロポリタン・オペラのトスカはヨンチェバとグリゴーロ(共に代役)が歌だけでも凄く良かったし、写真で見るマクヴィッカーのプロダクションも素晴らしくて、ええなあ、ニューヨークは、ロンドンはあかんやん
、と言うわかりきってることをあらためて思い知らされたトスカでした
』
というわけで、METの圧勝でしょうね。METライブビューイングのトスカ、公開直後に散々悪口を書きましたが、ヨンチェヴァとグリゴーロは素晴らしかったし、ものすごーくハイレベルな中での不満に過ぎません。
ロンドンの間違いは、「舞台」ではあってもシネマシーズンを観る客はあくまで映画館で「映画」を観ているのだという認識が甘いことだと思うのです。スクリーンでどう映えるかということも考えるべきなのでは。
このプロダクション、過去オポライスやゲオルギウもトスカをやっているし、アラーニャやアルバレスもカヴァラドッシを歌っています。ルックスも演技力も申し分のないそのあたりの歌手をシネマシーズンに配役して欲しかった。
ピアチェンカをクリソテミスで使うMETの判断と、トスカで使っちゃうROHの判断の違いが出来栄えの違いにも反映されていると感じます。
さて、ROHシネマシーズン、次のプロダクションは新演出の「カルメン」。頑張れロンドン、頑張れヨーロッパ勢。